カグラオーナーのフランス滞在記5 怒る副料理長編 2019-04-26 12:40:10 今度の店はパリのド真ん中。 凱旋門、エッフェル塔、シャンゼリゼ通りのすぐ裏 観光地です。 出勤してみるとなるほど凄まじい忙しさです。 サービス 6人 キッチン 6人 洗い場 1人 そこに僕がパティシエ補佐として加わりました。 期間は4カ月。 僕はパティシエ修行に来たわけではないので目標を立てました。 1つ『3カ月で肉か魚の担当になる』 2つ『雇ってくれたこのレストランに 全力で恩返しする』 1つ目の目標。 これは中々のハードルです。料理人は他にもいて皆、そこを目指しているからです。 しかも3カ月。 普通に厳しい。 ただ僕の場合 外国人であるが故に常に背水の陣。 気合いだけは負けちゃならんと思っていました。 出勤後すぐにMAXスピードで仕事をするため、朝は走る。そして筋トレ。 眠い目を完全に冷ましてギラギラしてました。 初日からパティシエ長に質問しまくり。 『これはなんですか?』 『あれはなんですか?』 『これはどう作るんですか?』 『今日の予定表はありますか?』『明日の予定表はありますか?』 パティシエ長(上司だけど年下)も最初こそ 『お、こいつはやる気あるな』って感じ。 途中から 『なんだこいつ!うぜー!』 のんびりやってる時間はないので皆より1時間早く出勤。 その日作る予定の材料を計量。 パティシエ長が来るやいなや 押せ押せで仕込みラッシュ。 ウザいやつです。 でもそういうの気にしてる場合じゃない。 パティシエの仕事にメドをつけないと他の部署を覗きに行くことも出来ないからです。 日本で2年間厳しい料理長のもとパティシエをしていたので やり方は分かってました。 フランスに長期滞在しようと思えば誰でもいけます。観光ビザで行って帰って来なければいいわけです。(良い子は真似しちゃダメですよ!) でもそれだけじゃ意味がない。 行って、何をやるか 何を持ち帰るか 目的はこれしかない。 あまりにグイグイやるもんでパティシエ長も協力(めんどくさいから)してくれるようになり。 今度は他の部署に突撃してました。 レストランにもよりますが。 ここでは料理長は厨房にいたりいなかったりほとんど副料理長が仕切っていました。 副料理長は権限と責任があります。 イヴォン副料理長は普段は優しい人ですが仕事となると別人。 怒りだしたら料理長以外誰も止められないんです。 厨房全体に目を光らせ 何かあれば顔を真っ赤っかにして 怒鳴ります。 さらに怒らせると鬼の形相で突進してきます。(料理人には多い) 大袈裟でなく。ホントに突進です。 相手の目を見たままドドドドって早歩きで近づきキスするんじゃないかという距離まで顔を近づけ怒鳴ります。 (時々は突進して そのまま突き飛ばしたり) (パワハラ?なにそれ美味しいの? という感じ) これがあるから気を抜くなんてできません。 僕はこのイヴォン副料理長がとても好きでして。 激しいけど優しいんです。 そして厨房全体が見事に統制されそしてチームワークがありました。 日に何度かいろんな場所で怒りの雷が落ちます。 僕も何度もくらいました。 出来ないならしょうがないです。 他の業種からしたら異様ですよね。 僕も最初は思ってました。 『そんな怒らなくてよくない?』 でもいつしか理解してました。 いつしか そりゃしょうがない。思いました。 お客様に満足していただきたい。ここに来て良かったと思っていただきたい。 その思いが強烈なんです。 こだわって選んだ食材を 考え抜いて料理して 最高の状態で提供したい。 だから1人のミス(怠慢や油断)で不本意な料理になろうもんならお客様はガッカリするしレストランの名にも傷がつく。 これが許せないから怒るんです。 対照的にダメなレストランはなぁなぁです。 ミスをしても『いいよいいよ、次はがんばりな』 なんて流します。 その料理をお客様が食べても何も感じない。 そこで働くスタッフは怒られないから居心地がいいと思っているかもしれませんが。 そんな環境で10年も過ごしたらもう取り返しつきません。 成長するためには良いことは良い。悪いことは悪い。としっかり線引きしないといけません。できるようになるまではなにを言われようと挑戦者であるべきです。 と僕なんかは思います。 そして1カ月後、事件は起きました。 つづく。